新宿のど真ん中にあるものづくり企業、別製封筒でデジタル社会に温かみを提供

「株式会社タケダ」は西武新宿線下落合駅近くの静かな住宅街の中にあります。「弊社の立地は準工業地域で、近隣には工場がたくさんあった場所なんです」と語るのは、取締役社長の武井幸睦さん。しかし工場を持っていた企業の撤退や縮小が相次いで、同社だけが残った形になったのだと言います。現在では周辺に住宅などが建ち、昔ながらの町工場というイメージがぴったりの佇まいになっています。
同社の工場では現場の機械オペレーターが11名、営業担当者が2名、事務担当者が2名の合計15名の社員が働いています。「住宅街の中の工場では騒音などの問題があるのでは？」と伺うと武井さんは「新しい方々が近隣に来られた形ではありますが、騒音などには十分な注意を払ってご迷惑にならないように配慮しています。また町内会などにも積極的に参加し、地域活性化に貢献する努力しています」と、良好な関係性を保っていると教えてくれました。

創業は1964（昭和39）年。以来ずっと新宿区内で封筒の製造を続けてきました。同社は既製のよくある封筒ではなく、お客様の要望や用途に合わせて作る別製封筒と呼ばれるオリジナルの封筒を作ってきました。「別製封筒は1mm単位でサイズを指定できますし、用紙や形状も自由に指定することができるものです」と武井さんは説明します。
例えば鉄道の回数券を入れる小さな袋やお年玉を入れるポチ袋、企業のDMや請求書、官公庁などから届く窓付き封筒も別製封筒の一種です。誰もが同社で作られた封筒を手にしたことがあるかもしれません。「自分が作った封筒が自宅に届いて驚いた」という社員もいるようで、それが仕事のやりがいだと感じていると言います。
脱ブラを意識する顧客からはクリアファイルを紙製にしたいという要望があり、封筒を作る機械をカスタマイズして作っています。また昨今のコロナ禍においては抗菌ニスを塗った抗菌封筒も作られているそうです。

同社の強みは「規模が小さいがゆえにできることがあります。大手さんがやらない案件、同業他社さんがやりたがらないこと、ニッチなところの封筒づくりができる」ことだと武井さんは言います。別製封筒は専用の製袋機で作られますが、微妙なサイズや糊の量などを機械オペレーターが細かく調整するという、職人としての技術が求められる仕事。顧客の難しい要望に対して、満足がいくものができた時に大きな達成感が得られるそうです。
どんな封筒作りにも対応できるように、さまざまな種類の製袋機があることも特長のひとつ。「1年に1回しか使わないような特殊な機械もあります。ご要望があると思うと処分できないんですよね」と武井さんは語ります。そして、「どうしたらできるかを考え続けることは大変ですが、できた時の喜びは大きい。それまでなかったものを世に送り出すことは、ものづくりの醍醐味です」と続けました。

「封筒加工は、中に入れる紙があってこその業界だと認識しています。今後世の中のペーパーレス化が進んでいくと、需要が減ってくるということは前提にしなければなりません。そのうえで封筒加工により社会やSDGs（持続可能な開発目標）などに貢献することで、自分たちの存在意義を捉えて事業を進めていきたいと思っています」。今後の事業展開について武井さんはこう語りました。
一方で、「新宿のど真ん中でものづくり」をすることの楽しさを強調します。デジタル社会の中で、温かみが感じられる封筒を作る会社があることを知って欲しいという思いもあります。
「マイナーな業界ですが、一度その目で見ていただきたい。この封筒が世の中に出てどう使われているのかを考えれば、封筒作りは楽しいものです。機械いじりが好きな方には見たこともない機械に出会えます。まったく未経験でも構いませんので、興味のある方はぜひ一度工場を訪れてみてください！」